(2010.12)
アルザスのテロワールをビオディナミで十全に体現する第一人者
アルザスの中心地であり、オー・ラン県の県都でもあるコルマール市のすぐ西に位置するテュルクハイム村にドメーヌはある。40代後半のオリヴィエ・フンブンレヒト――フランス人で初めて、非常な難関であるマスター・オブ・ワインの資格を取得――が運営するが、ドメーヌはフンブレヒト、ツィント両家によって1959年とそれほど古くはない時期に設立された。とはいえ以前から双方ともにワインづくりに従事しており、なかでもフンブレヒト家はラベルにも記されているとおり1658年まで由緒をたどることができる古い家柄。
当初、数ヘクタールの地所で始めたドメーヌも、今では10ヘクタール以上のグラン・クリュを含む総面積40ヘクタールほど――その半分は本拠地テュルクハイムの村にあり、アルザス最南端に位置するクロ・サンテュルバン始め、他の区画もほとんどがコルマール市以南に点在している――と規模の大きいものに成長。また、1992年にはテュルクハイム村にある単独所有畑ヘーレンヴェグのなかに近代的な設備とモダンなデザインの醸造所も完成した。
今でこそテロワールに関する論議は盛んだが、ドメーヌではワインづくりの最重要な要素として早くから注目。フランスでも多様なテロワールが見られるここアルザスの地で、父レオナールは60年代より優れた土壌の区画を次々と購入。オリヴィエにいたっては大学で土壌学を専攻するなど、親子そろってのテロワール至上主義者。
出来上がるワインがぶどうの品種毎にその味わいと個性が異なるのは当たり前だが、フンブレヒトでは加えてテロワールによる違いが際立つ。所有する地所のなかでもグラン・クリュに限って北からその特徴を見ていくと、最初がドメーヌの本拠地テュルクハイム村にあるブラント。雲母を含む砂質化した花崗岩によるカルシウム質土壌は、繊細で果実香の高いワインを生み出すため、リースリングに最適のテロワールとなっている。フンブレヒトでは所有する区画全てで樹齢50年を数えるリースリングのみを栽培。
テュルクハイムのすぐ南にあるヴィンツェンハイム村のアルザス最大のグラン・クリュがヘングスト。第三紀礫岩の基盤を、泥灰土にヴォージュ砂岩と石灰岩の礫が覆う土壌からは、長期の熟成に向く、強い酸味と肉厚の酒躯をもったワインが生まれ、ドメーヌの区画には樹齢50年に達するゲヴュルツトラミネールが植えられている。
ゴルデールはテュルクハイム村から5キロメートルほど南、ゲベルシュヴィールの村に位置する45ヘクタールのグラン・クリュで、石灰岩を基盤とする土壌にはジュラ紀のウーライトが見られる。植えられているぶどうの多くはゲヴュルツトラミネールだが、ドメーヌではゲヴュルツとミュスカを栽培し、力強さのなかにもデリケートさを感じさせるワインを産出。
フンブレヒトご自慢のモノポールがアルザス最南端、タンの村にあるグラン・クリュ、ランゲンのなかのクロ・サンテュルバン。面積19ヘクタール弱のランゲンは、凝灰岩、茶雲母の入った安山岩などからなる基盤を、火山性の堆積物が覆っているテロワール。ドメーヌが所有する広さ5.5ヘクタールのクロ・サンテュルバンは350メートルから450メートルとこの地方でもかなり高い標高で、最大傾斜68度というほとんど垂直に近い斜面にはリースリングとピノ・グリ半々に少々のゲヴュルツトラミネールが植えられ、しっかりした酸とミネラルに富んだワインを生み出す。
テロワールを最大限に表現するワインを生むという観点から、ドメーヌではぶどう樹の栽培は本格的なビオディナミを採用。そのため20人を超える常雇いのスタッフが畑仕事に従事、きめ細かく日々の耕作にあたっている。収穫時、畑で徹底的にトリを付されたぶどうは直ちに醸造所に運ばれ搾汁されるが、その際、果汁やワインの移動はグラヴィティ・フローによる。栽培だけでなく、最終段階の瓶詰めまで、余計な負荷をかけず細心の注意をもってケアされている。
つくりで特筆すべきは、いくつかの辛口のものを除き、アルコール発酵からマロ=ラクティークまで全くの自然まかせという点。そのため、辛口に仕上がるワインでも数ヵ月、ヴァンダンジュ・タルディヴやセレクシヨン・ド・グラン・ノーブルになると2年近くかかる場合もザラ。そして樽熟は赤のピノ・ノワール以外は基本的に600リットルの容量のものを用いるが、オリ引きは瓶詰め時の1回のみ。
またテロワールは熟成によってこそ十全に体現されるとの持論から、より長期間の瓶熟を可能にする手段として、微量の炭酸ガスをワイン中に留めたままでの製品化を1997年のミレジメよりおこなっている。これは、炭酸ガスはワインをフレッシュに保つという性質を応用したもので、マロ=ラクティーク発酵のガスを残した状態で瓶詰め。そしてガスを抜けにくくするため、コルクの上にまずワックスで封をし、その上から金属のキャップをするという手間を掛けている。
さらにフンブレヒトでは、2001年のミレジメより甘辛の目安をラベル右下に表示するようになった。単純に残糖分の数値だけでクラス分けしたものではなく、甘酸とアルコールのパーセント、それに酒躯など、ワイン全体のバランスから以下の5段階に分類。
indice1)
リットル中の残糖分が6グラム前後以下の、エクストラ・セックとでもいうべき辛口のワイン。
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残糖分10数グラム以下の、まろやかな辛口からほのかな甘口に仕上がっているもの。
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フンブレヒトの得意とする甘口仕上げだが、残糖分は20数グラムほどで極甘口とは異なる。
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残糖分30数グラムから40数グラムと極甘口のタイプ。
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ヴァンダンジュ・タルディヴとセレクシヨン・ド・グラン・ノーブル。
上にも記したように発酵は自然まかせのため、同じリュー=ディからのワインでもミレジメによってこのアンディスが異なることが儘ある。オリヴィエの、果汁からワインへの変身に不要な人の手は介在させないというモットーからも避けられない点で、これはマーケティング的には難しい面があるが、テロワールに加え、ミレジメをごく自然に反映したワインこそがフンブレヒトをフンブレヒトたらしめている大きな魅力なのである。
そのワインだが、共通するのは輪郭のくっきりした立体的でメリハリある風味と味わい。北の産地といってもぶどうの糖度はかなり上がるため、アンディス1の辛口の場合でも14パーセントを超えるような高いアルコールのものも多々見受けられるが、全体のバランスには素晴らしいものがあり、冴え渡る美しい酸とミネラルが瑞々しい果実と合わさるワインは複雑さも十分で、キレと余韻が見事に共存。アンディス2から3の甘口に関しても同様で、甘口といってもワイン全体にごく自然に調和する甘味のため、風味、味わいはより豊かさを増し、満足度は高い。
アンディス4と5は極甘口となるが、遅摘みで糖分を凝縮させるヴァンダンジュ・タルディヴは基本的に貴腐のつかないぶどうを使用、アルコールは12パーセントから16パーセントほどで、1リットル中の残糖は50グラムから100グラム。貴腐ぶどうからつくられるセレクシヨン・ド・グラン・ノーブルは、例えば2005年産クロ・ヴィンズビュールのピノ・グリの場合、アルコールはわずか5パーセント、しかし残糖は1リットル中500グラムと、ほとんどドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼと同じ仕上がり。淡い黄金色でトロッとした粘性のワインは、口に含むと圧倒されるヴォリュームながら、緊密感ある酸が全体を纏め上げる理想的な構成で、複雑かつ限りなくピュアな液体。そして半世紀以上の熟成も楽に可能。
上記はアルザス、もしくはアルザス・グラン・クリュのACワインとなるが、1点だけヴァン・ド・ターブルがある、名前はZind。ミレジムの表記は出来ないため、例えば2009年産の場合、zに樽のイラストを2個、そして9を記し、2009年を表している。2001年のミレジムから生産を開始したが、2004年より、クロ・ヴィンズビュールに植えられた樹齢20年になるシャルドネー3分の2とオーセロワ3分の1からつくられるようになった。アンディスは1もしくは2――2007年産は2だったが、08年と09年は1――の仕上がり。
なおセパージュだけが表示されたワインがあるが、これは基本的に複数の区画からのアサンブラージュ。また2006年産のリリースより、エコセールのビオディナミ認証マークの入ったバック・ラベルを採用している。
ドメーヌ・ツィント=フンブレヒト主要畑一覧
グラン・クリュ
ブラント――テュルクハイム村――
リースリング
ヘングスト――ヴィンツェンハイム村――
ゲヴュルツトラミネール
ゴルデール――ゲベルシュヴィール村――
ゲヴュルツトラミネール
ミュスカ
クロ・サンテュルバン・ランゲン――タン村――
リースリング
ゲヴュルツトラミネール
ピノ・グリ
アルザスAC――リュー=ディ付き――
クロ・ヴィンズビュール――フナヴィール村――
リースリング
ゲヴュルツトラミネール
ピノ・グリ
オーセロワ
シャルドネー
ヘーレンヴェグ――テュルクハイム村――
リースリング
ゲヴュルツトラミネール
ピノ・グリ
ミュスカ
ピノ・ブラン
オーセロワ
ハインブール――テュルクハイム村――
リースリング
ゲヴュルツトラミネール
ピノ・グリ
ピノ・ノワール
クロ・ジュブサル――テュルクハイム村――
ピノ・グリ
クロ・ホイゼレール――ヴィンツェンハイム村――
リースリング
ローテンベルグ――ヴィンツェンハイム村――
ピノ・グリ
オーセロワ
アルザスAC――ヴィラージュ――
テュルクハイム村
リースリング
ヴィンツェンハイム村
ゲヴュルツトラミネール
ピノ・グリ
ピノ・ノワール
ゲベルシュヴィール村
ゲベルシュヴィール村
ゲヴュルツトラミネール